ああ、おいしいなぁ

愛犬ティーモと愛猫バジルと車と建築と

エドガー・モロー 無伴奏チェロ・リサイタル

今日は、若手チェリストで最も注目しているエドガー・モローのリサイタルに行ってきました。

f:id:rikyudo:20191021012348j:plain

エドガー・モロー


2011年のチャイコフスキーコンクールで17歳にして2位となり、注目を集めた人です。
個人的には、NHKBSプレミアムのクラシック倶楽部で観た演奏で知りました。
なので注目しだしたのは最近です。

会場は兵庫県立芸術文化センター大ホール。

f:id:rikyudo:20191021012456j:plain

外観

ここは西宮市にあるので、自宅からは、やや遠いこともあり、演奏会を聴きにきたのは初めてです。
10年以上前に父がまだ生前に父の門下生の方達の発表会で来て以来なので合計でも2回目です。

建築的にも、とても興味のあった建物です。
ここの建物は、内外装にコンクリート打放しを多用しています。
先日ご紹介したアイ・アイ・ランド同様に、単純な打放しではなく杉化粧形枠と小叩きの組み合わせということで、打放しの持つ冷たさのようなものを打ち消して、素材の荒々しさや重厚さという良い面を引き出しています。

f:id:rikyudo:20191021012836j:plain

エントランスホール

ある意味、定番的な手法ではありますが、これだけ徹底していると迫力あります。
壁と天井は杉化粧形枠、柱は円柱を3つ抱き合わせたような形状で、小叩き仕上げ。
丸みをさらに強調しています。
形状的に、足元を絞っているのと、全体的に細身のプロポ―ションによって、軽快な印象を持ちます。

f:id:rikyudo:20191021013004j:plain

屋内の天井

f:id:rikyudo:20191021013033j:plain

屋外の天井

f:id:rikyudo:20191021013050j:plain

打放し壁に打ち込みで作った時計

f:id:rikyudo:20191021013143j:plain

柱脚部分

対照的に、天井はリブ状の打放しで、ここも杉化粧形枠ということで、非常に荒々しい強さを感じさせます。
柱の形状、天井のリブというのは、日本建築の寺社などをモティーフにしているのかもしれません。
エントランスの大階段や、ホールの壁は木をふんだんに使っていて、コンクリートと木の相性の良さのようなものを感じます。

さて、演奏会の方です。
バッハの無伴奏チェロ組曲を3曲というプログラムで、とても本格的な内容です。
無伴奏ということで、当然ですが伴奏のピアノが無く、ステージの真ん中にぽつんと椅子があるだけ。
ホールの演出で避難誘導灯も消灯しての暗闇の中、ステージ中央の椅子の周辺だけが明るく照らされている独特の雰囲気です。
そこへエドガー・モローがチェロを持って颯爽とステージに登場。
1曲目は有名なハ長調組曲
プレリュードは誰もが一度は聴いたことがあるだろう名曲です。
最初から音の美しさに、すっかり魅了されてしまいました。
ものすごく抽象的な表現になりますが、透明でどこまでも伸びていくような、それでいてふんわりとした温もりを感じるというか、まあ、なんせいい音色なんですわ。
楽器は骨董商の父親から買い取った1711年ダヴィッド・テヒラー製と何かの記事に出ていました。
あまりチェロについて詳しいわけではありませんが、モンタニャーナとかストラディバリウスなどと並ぶ歴史的名器のようです。
とても落ち着いたテンポで、すっと心に入ってくるプレリュード。
たっぷり歌うサラバンド
リズミカルなメヌエットは、この曲が舞曲だということを明確に思い出させます。
ジークは軽快で、とても鮮やか。

拍手をはさんで続けざまに3番へ。
こちらは、非常に得意にされているのではないかという印象を持ちました。
とにかく、体に馴染んでいるという印象でした。
これまた、とても美しい音色とたっぷりと歌い、そしてリズミカルに、また軽快にと、この、ある意味とっつきにくい曲が、すごく身近に感じられる演奏。

休憩をはさんで、6番。
これが一番難しいと言われている曲ですが、エキサイティングな演奏でした。
特にサラバンドの美しさは、本当に夢見心地でした。
鮮やかにジーグを弾ききった後、たっぷりと間を取って立ち上ったエドガー。
すごい拍手が沸き起こりました。
見上げれば、4階席までぎっしり満員の客席からの、止まらない拍手で、エドガーもとても満足そうでした。

アンコールはピアノがありませんので当然無伴奏のものだろうから、何かな(まさかコダーイとか?)と思っていましたが、この日の世界観を大切にされたのでしょう。
バッハの無伴奏の2番から2曲、サラバンドクーラントでした。

2番はとても美しい曲だと思いますが、中でもサラバンドは特に美しく大好きです。
これをたっぷりと歌い、再び夢見心地にしてくれました。
こちらは、短調であることもあって、より心に迫ってくるような美しさを感じます。
そして、アンコール2曲目のクーラントは、見事な高速演奏。
これはこれでとても爽快でいいですね。
恐らく、今まで聴いた中では一番速い演奏だったと思いますが、決して雑ではなく、丁寧でありながら音楽も生き生きとした流れを感じる演奏で、ただ速いというのとは違います。
むしろ、これが正しいテンポなのだと感じさせられました。

美しい音色、確かなメカニックとそれを生かすテクニック、たっぷりと歌い、リズムの乗りも良く、テンポも自然でありながら自在で個性的。時に軽快に時にゆったりと、その上演奏している姿もかっこいい。 全部入りなんですよ。

ところで東京では、休憩2回挟んで無伴奏チェロ組曲の全6曲を弾いたそうで、凄いですね。
でも個人的に、演奏会では、今日のプログラムぐらいが丁度良いと思います。
CDで聴くなら全曲も通して聴けるけど、演奏会だと、聴く方の集中力が続かないような気がします。知らんけど。

さて、演奏会後に、CDを買うとサインしてもらえます。
僕は、日ごろサイン会には興味無いのですが、どうしても一言伝えたかった。
プログラムにサインをしてもらい、「Great Play!」と伝えると、「Thank You!」と握手してくださいました。
大きな手です。
そして、とてもフレンドリー。
少しうれしそうにしてくれたのじゃないかと勝手に思っています。
妻にも握手してくださり、妻はチェロが上手くなると喜んでいました。
最初の写真は、僕とエドガーの握手の瞬間を妻が完璧なタイミングで撮っくれたました。

後で調べると、去年も西宮に来ていたようなので、また来年も来てくれることを楽しみにしています。